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また、あした。

小説書いたり読んだり、絵を描いたり、音楽作ったり、動画作ったりしている創作人間のブログ。

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さてさて、今日の本題。

これまた引っ越しの直前にいただいたものですが、高田高様のイラスト小説を紹介したいと思います。


↓元のイラストはこれ

girl16.JPG











ちょうど昨年のふゆごろ。

春が待ち遠しくてさくさく落書きしたものです。


ではでは、このイラストにつけていただいた素敵な小説をどうぞ><


 



*********************



 記者としての人生を歩み出して早十二年が経つ。様々な記事を書いてきた。
 明るい内容もあれば、いたたまれない内容もあった。どういった内容であれ、それを正確に読み手に知らせるのが記者の仕事だ。しかし、そこに強く私情を込めたりはしない。
 例えば、殺人事件の記事を書いた際、被害者側の気持ちをきちんと汲み取っているか、と言えば首を横に振らざるを得ない。残酷な話だが、我々にとって事件記事は単なるネタでしかない。被害者側の気持ちになって一つ一つの記事に思いを込めていては、三日と持たずに精神が狂ってしまうだろう。
 そんな日々に疲れ、地方へと逃げた。殺人事件どころか、事件と呼べるものがろくに起こりもしない田舎に。
 逃げなくとも記者をやめてしまえば済んだはずだが、それでもこの職を手放さなかったのは、俺が弱かったからだろう。立ち向かう事をやめ、それでも逃げ切れず、俺は今日も田舎町で行われる行事の記事を書いている。



 フィールドワーク、なんて言えば格好は良いが、ようは散策。俺の日課だ。
 田舎町の田園風景は万人の心を癒すものだと思う。どこを切り取っても画になる風景。芸術の心得を持つ者であれば、筆を取りたくなるはずだ。現に休日ともなれば、道端や川岸にイーゼルを置き、景色をカンバスに書き込む絵描きの姿を目にする。
 そんな絵描きの姿を横目に、軽車両一台がようやく通れる程の狭い道路を歩いた先、一軒の古びた店が構えている。そこはもう何十年も前から駄菓子屋をやっているそうで、外観は見合っただけの趣がある。雨風による痛み、伸び放題の草のつる、都市では見る事のない塗炭の屋根。雨漏りは大丈夫か、台風で屋根が飛ばないのか、そんな事を心配してしまう。
 数ヶ月程そこに通ううちに、店主であるおばあさんと親しく会話するようになった。そしてその日は、こんな話を聞いた。
 この店の裏手にある坂道をずっと上った先に丘があり、そこには樹齢何百年にもなる大きな桜の木があるそうだ。ほんの数年前までは桜の季節になれば多くの人で賑わったが、今では桜見も行われず、桜の木自体忘れられているのだとか。その理由として、都市開発が挙げられる。田舎町にも有名な店舗が進出し、インターネット環境が充実し、そうなれば当然、人が集まり出す。それに合わせて次第に田畑は宅地へと姿を変え、家が建ち、ビルが建ち、自然は失われ、自然を思う心もそれと同時に薄れていく。
 残酷なものだ。
 ほんの数年前は自分達の心を満たしてくれていた自然を、こうも容易く破壊出来るとは。破壊する側の種に立つ自分が偉そうに意見するのは正直滑稽だと、自分自身思ってはいるが。
「今あ、桜の花が咲いとる。気になるなら見て来なや」
 おばあさんに手を振って店を出ると、裏手の坂道へと向かう。
 見た目は緩やかだが、歩きはじめて数分後には息が切れた。学生時代には長距離走の選手をしていたが、そんな昔話が通用するのも二十代半ばまでだ。年々の肉体の衰えを感じずにはいられない。
 額の汗を拭いながら背を伸ばし、懐から煙草を取り出す。一本を口にくわえて続いてライターを探るが、どうやら家に忘れて来たようで見当たらない。取りにわざわざ戻るのも馬鹿げている。休憩もそこそこに坂を上る事にした。
 膝に手を置き、まるで重りでも背負ったように一歩一歩慎重に坂を上る。息を切らせながら、坂から見える田舎町を眺める。
 遠く駅側、開発が進む場所では大型重機が忙しく騒がしく作業を進めているのが見える。それとは逆に田園風景が広がる田舎側は、静かなものだ。
 眺めながら坂を上るうちに丘の頂上へとたどり着いた。店のおばあさんが言っていた通り、そこには桜の大木がどっしりと構えていた。
 見た者を圧倒するその大きさ。大の大人十人以上が手を繋いでやっと囲えるその太さ。見上げても頂点が見えないその高さ。都市開発というものは、これだけの存在感を忘れさせてしまう程のものだろうか。少なくとも俺は、今日のこの日、この一瞬の驚きを生涯忘れる事はないと思う。それだけ、想像を超えていた。
 桜の木に近寄り、そっと触れてみる。質感はただの木だ。しかし、他の木にはない強い生命力のようなものを確かに感じる。それは単に、桜の木の大きさに圧倒されていたためかも知れない。
 ふと横を見ると、そこには少女が立っていた。歳は十代半ば、後半程だろう。桜の花に似た柔らかな色彩の可愛らしい着物。長い黒髪は後ろに括られている。純和風美少女とでも例えればいいだろうか。
 少女は、時折降る桜の花びらを手に取って無垢な笑みを浮べていた。なんという自然な笑顔だろう。見惚れた。
 俺に気付いたのか、少女は驚いた表情でこちらを見ると、小動物のように素早く木の陰に隠れた。怯えるような表情とその瞳。俺はそんなに怖い顔をしていただろうか。そんな態度を取られると、少しばかり傷付く。
「見ない子だね。この辺りの子、かな?」
 少女は警戒しているのか、質問に答えようとはしない。ただ、じっとこちらを見ている。
「俺は一年くらい前に越して来た者でね、ここに桜があるのは今日知ったんだ。立派なもんだな。もっと前から知ってれば、毎日見に来てたのにな。惜しい事をした」
 ははは、と笑ってみせると、少女も警戒を解いたのかにこりと笑顔を見せた。
「君もこの桜が好きなのかい?」
 少女は満面の笑顔を浮かべながら元気良くうなづく。その姿からもわかる通り、余程この桜の木に思い入れがあるのだろう。
 彼女はすっと右手を上げ、遠く駅側を指差した。重機が並ぶその場所を見るその表情は、寂しげだ。その表情から、田舎町の姿が変わっていくのが心苦しいのだろう。
「二ヶ月前だったか、この町に高速道路を通す計画が持ち上がったんだ。この丘も、もしかしたら崩されるかもしれないな」
 少女は駆け寄ると俺の腕を強く掴み、泣き出しそうな顔で首を何度も振った。丘を崩されれば、当然そこに根を張るこの桜の木も邪魔者として取り除かれるだろう。これだけの立派な桜も、重機に掛かれば一瞬。儚いものだ。
「桜の木を生かそうって事で、近場に移す話も同時に進んでるから、この木が死ぬのような事はないと思うけど」
 フォローになればとそう付け加えたものの、少女は肩を縮めてうつむいてしまった。

 翌日。
 俺はある記事を書く事にした。それはあの丘にある桜の木についてだ。
 ただ、計画を取り止めてどうこうという内容を今更書いても大して注目はされない。ならばせめて、あの丘から木が移されてしまう前に、桜の木を見てもらおうと考えた。単純な話、花見だ。田舎町とは言え観光グループは存在する。そこへ話しを持ち掛け、宣伝をしてもらった。他に出来る事はせいぜいチラシを作り、町中、特に都市開発が進んでいる地域に張り出し、配って回ってもらう事。当然俺もチラシ配りに協力した。
 この町に来てはじめて、この町のために動いているような気がした。
 翌週の休日辺りから、その桜を見に来る人が増えはじめた。噂が噂を呼び、桜の木の存在が広く知られる頃になると、観光バスツアーが組まれる程にまでなっていた。
 俺自身、驚いていた。
 単なる思い付きで書いた記事、必死になって観光グループを回り、チラシを配った。その小さな波が、いつの間にか大きな波へと姿を変え、人の関心を集めている。正直、ここまでの効果があるとは思わなかった。
 これほどの充実感、記者生活十二年の中ではじめての感覚だ。

 日曜日。夕日が町を彩る頃、俺はあの桜の木のある丘にいた。
 根元に腰掛けて町を眺めるのが、休日の楽しみだ。
 この楽しみも、あと一、二年だろうか。例の計画は滞りなく実行される。丘は崩され、木は移される。
 悔しくないと言えば嘘になるが、それも時代の流れと受け入れる他無い。俺は俺の出来る全ての事をやり切った。今はそう感じている。
 草を踏み分ける音が聞こえ、そちらを向く。俺がここで町を眺めていると決まって姿を見せる、桜色の着物を着た少女。
 柔らかな笑みを浮べると、俺の隣に腰を下ろした。並んで町を眺めるのも、これで何度目だろう。そしてあと何回、こうして二人で町を眺められるだろうか。そう考えると胸の奥が苦しくなる。
「桜の木は自然公園に移されるって話だ。立地条件で言えば、今よりも多くの人に見てもらえるかな」
 少女は小さくうなづく。それは喜んでいるのか、それとも悲しんでいるのか。
「俺は、少しはこの木に恩返し出来ただろうか」
 少女は言葉の意味が理解出来なかったのか、首を傾げた。
 この桜の木を眺め、この丘から町を眺める事で、どれだけ心が癒されたか。錆び付いた心がゆっくりと動き出すのを、確かに感じた。この木に出会わなければ、今も心を腐らせたまま生き続けていただろう。
 二人並んで桜の木を眺める。なんて事はないが、俺には特別なものだった。

 あれから二年――。
 高速道路開発が着工され、丘は崩され、木は自然公園へと移された。丘のふもとにあった例の駄菓子屋は、工事の開始と同時に店を閉めてしまったそうだ。おばあさんは今、田舎町の隅で孫と暮らしている。たまに顔を見せると、変わらない笑顔で出迎えてくれるのは心底嬉しいものだ。
 自然公園に移された事で人の目に多く触れるようになった桜の木ではあったが、その姿にはかつての雄大さが感じられなくなっていた。移す際に確かに多少枝を払ったものの、その大きさはかつてのまま。それなのに随分小さく見える。あの丘は、桜の木にとって長年連れ添った友、それ以上の存在だったのか。ロマンチックに言えば、友を失って寂しいのかも知れない。
 そういえば例の少女はどうしたのだろうか。木が移された事で公園へ来ると思っていたが、一向に見掛ける事がなくなってしまった。もしかしたら、もう会う事はないのかもしれない。
 なぜか、そう思った。



 星の瞬く夜空。肌寒くなるそんな頃、一人の少女が自然公園に訪れていた。
 桜の木にゆっくりとした足取りで近付くと、その肌にそっと触れる。優しく、まるで母親が子供を撫でるようにそっと。
 しばらくして木の肌から手を離すと、柔らかい笑みを浮べて桜の木を仰ぎ見る。
「大丈夫だよ」
 月光に照らし出された少女は、その光に包まれながら徐々に存在を薄くしていく。そして、光の粒となって姿を消した。



 桜の木は今日も、その両手を広げて町を眺めている――。


終わり
 ************



目の前に田舎町がまざまざと浮かぶような情景描写。
記者の淡々とした独白が、かえって情熱を感じさせるようです。

田舎町の大きな桜の木をめぐる物語にイラストの女の子がからんで、少しさみしいはずなのに、とても心が温まるお話でした。


女の子はいったい何者なんだろう、とふと考えてしまいますが、自分の足りない頭では桜をはぐくんでいた大地のかみさまなのかな、という月並みな考えしか浮かびませんでした。


たった一枚のイラストからこんな素敵な小説にしていただけるなんて……!

また、何かオリジナルのイラストを描いてみたいな、と思ってしまいました^^



その前に10000hitのリクエストをちまちま進めます^^


次は麻葉紗綾さまですね。

イラスト小説と曲。


桐谷さま、藤咲さま、それから夕羽、まだまだお待たせしますが気ながにお待ちください><
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お久しぶりです

高田だったTです。
と、覗いてみれば、いつの間にか引越しも、ネット環境のあれこれも、なんとかクリアしていたようで。
引越しって経験したことないですが、わくわくそわそわですか?
引越しの手伝いはしたことありますけどね。

そんな引越し直前に小説送っちゃってたですか。いやはや、すいません。
もっとこう、かわいい感じの作品にしておけばよかったかなあ、とか今更思ってしまったりですが。
また機会がありましたら小説書かせてケロ、とか言うかもですが、その時は、しょうがねえなあー、って感じ一つお願いします。
by 平隊員T 2010/04/21(Wed)23:44:45 編集

Re:お久しぶりです

こんにちは!
すみません! お名前を古い方と完全に混同していました……orz
すぐに訂正しておきます。
本当に申し訳ありません!
小説、とっても素敵でした。ほんのりと心温まる物語をどうもありがとうございます。
またオリジナルでイラスト描きたいなあ~なんて思ってしまいます。

最近ようやく引っ越しもあらかた終わり、暮らす環境が整いました^^
とはいえ、本棚に入りきらない本は段ボールに詰めて押し入れに詰め込んでありますが……orz でっかい本棚がほしい。
ではでは、本当にありがとうございました!
2010/04/27 21:36
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